(Vosshall et al. 2000)はこの論文議論のなかで、次のようにハエではmonoallelicな発現(2つのOrXアリルのうち1つのみ選択)はおきてないだろうとしている。以下論理展開である。

  • 1)マウスでは1つの細胞で、2つあるOrXアリルのうち片方のアリルだけ発現する(Chess et al.1994)(2つのOrXプロモーターのうち1つだけ活性化というわけやね),さらに、
  • 2)マウスで,OrX-transgeneが発現している嗅細胞では内在 OrX geneは発現してない(この場合も、OrXプロモーター中1つだけ転写されるという主張)。
  • なのに、ショウジョウバエでは、OrXプロモーターで発現誘導されるTransgeneが発現している嗅細胞は、適切な内在Or遺伝子(OrX遺伝子)も発現している。そのため、「ハエでは複数のOrXプロモーターが1つの細胞で同時に活性化され得る。だからハエでは2アリルのプロモータ2つがともに活性化されて転写され得るだろう、従ってmonoallelicな発現ではないだろう」としている。
    • 2)についてQasba and Reed,1998を引用してこういってるが、これを引用したのはよくなかったと思う。彼等が使っているのは、外来OrX正常タンパクができないタイプのtransgeneである。このようなtransgeneの場合、OrXプロモーターによるtransgene中のリポーターの発現に加え、別の内在Orが選択され発現されることが、今ではわかっている。従ってこのQasba and Reed,1998から直ちに「OrXプロモーター複数中1つが選ばれ、残りは選ばれない」とはいえない(なおこの場合、内在Orとして1000個から1個選ぶので、transgeneと同じOrXプロモータで転写される内在OrXが選ばれる確率はほとんどないので検出されないのかもしれないし、あるいはやはりOrXtransgeneが選ばれたら、同じOrXプロモータをもつ内在OrXは選ばれないのかもしれない)この論文では、リポーターのlacZによるB-Gal染色(OrX-Transgene転写翻訳を示す)と、OrXタンパク抗体染色(内在OrX転写翻訳を示す)が別々の場所に見られ、2重染色されない結果から、当時はこれが「OrXの複数プロモータのうち1つだけが活性化」を示す結果だとVosshall等がいったんだろが、、)(なお、transgeneから正常Orタンパクできる場合はSerizawa等(2000)が示したように「OrX-Transgeneと内在OrXの2つのプロモータのうち片方だけ活性化する」といえる)。
  • ハエで使われているtransgeneはOrXプロモーターGal4であり、このTransgeneからは外来OrXタンパクは作られない(UAS-OrXをもつtransgeneを同時にハエの染色体にいれた場合でも、OrXプロモーターから直接OrXタンパクが産生されるわけではないことに注意)。これは上にのべた、マウスでのOrXプロモータ+リポーターというtransgeneと、「transgeneから正常Orタンパクできない」という点が同じである。ハエでも、マウスでも「内在Orとこのtransgeneの共発現」が確認されており直ちに「ハエだけで、OrXプロモーター複数が選ばれ、マウスは絶対そうならない」ことを示すものではない。

ただ、ハエではOrXプロモGal4 transgeneで可視化された細胞は、transgeneに用いたのと同じOrXプロモータからできる内在のOrXが発現してる場合がほとんどのように見え、複数のOrXプロモーターが1つの細胞で同時に活性化されるわけである。その意味では確かにこのようなtransgeneでリポートされる細胞では、内在OrとしてOrX以外が選ばれることの多いマウスと違う。ただ、それが2アリルともの発現を示唆するかはすこし慎重に考えるべきだろう。
だから、最終的には、ハエでもマウスのように、OrXプロモータ含む上流配列+OrXみたいに直接つないだtransgeneの場合でtransgeneとendogenousのOrXが共に発現するのを確かめるか、2アリルからの発現を区別できるようにして、同時発現を示さないといけないのではないか。Vosshall等の論理でmonoallelicでないと言っていいのか(たぶんmonoallelicでないだろうと私も思うが)少しひっかかるのだ。