嗅覚 Or83bの謎

BuckとAxel(1991)のマウスでの嗅物質受容体odorant receptor(嗅覚受容体olfactory receptorと書いてある場合もある)候補タンパクの発見以来、線虫、キイロショウジョウバエでも嗅物質受容体が発見されている。

その後、東大の東原先生の研究でマウスの嗅物質受容体(Orと略記)が実際に嗅物質と思われる物質の結合により、情報変換を起こすことがアデノウイルスを使って嗅細胞に嗅物質受容体を導入する実験で示された。

またin vivoでOrが実際に嗅物質の結合を電気信号に変換することは、Yale大のCarlson先生によりショウジョウバエで示された。これには欠失染色体と転座染色体を巧みに用いた、生存可能、妊性のあるOr22a欠損系統が大きな役割を果たした。この系統ハエでは、ある嗅細胞で(自発性活動電位はあることから死んでいないことがわかる、)嗅物質に対する活動電位が消失していること、このハエに救助実験といって、Or22a遺伝子を戻してやると、嗅物質に対する活動電位が回復することなどが明らかにされている。

またOr43bについてはElmore and Smith により、gene targetingが報告された。Or遺伝子のようにノックアウトしても実験室では生存、妊性に影響が見られない遺伝子ではgene targetingは特に有益かもしれない。

さてOrはマウスでは1嗅細胞ー1嗅物質受容体発現という法則が成り立っているが、線虫では1嗅細胞ー複数嗅物質受容体の発現がみられる。ショウジョウバエではOr83bを除いて、1嗅細胞ー1嗅物質受容体という法則が成虫で成り立つようである(Or22aとOr22bも同じ嗅細胞に発現していると思われるが)。

Or83bは約80%の成虫嗅細胞で発現しているそうで、その機能が不明である。他の受容体とダイマーを作って機能してるのではとか、考えられているようだ。

これに対する私の勝手な想像(解釈は次ぎのようなものである)。まったくの想像であるので御注意。
嗅覚というのは非常に鋭敏であり、つまり信号増幅率が高い。
従って、たくさんの嗅物質にさらされると、活動電位のバーストが激しくおこり、嗅細胞にダメージがおこる(てんかん発作を考えれば良い)。そこでOr83bを発現させ、受容膜の挿入可能siteへの挿入を、機能を持つOrと競合させ、わざと感度を下げているのではないか?脊椎動物の嗅細胞は大人でも常に再生され新しく付け加わるそうだ(40日のturn overとあるので寿命が40日か?)。ハエでは嗅細胞は一度作られそれで終わりらしい。だから大事に守る必要がある?もっともよく生きても実験室で成虫になって2−3ヶ月でだんだん嗅覚応答が悪くなるというからどうだか)。
あるいは受容体をR、嗅物質をoとすると、その結合状態RoがGタンパクを活性化し、大きな信号増幅を行う。従って、高感度である嗅覚では、Ro状態はRとoになかなか解離せず、いつまでも信号をだし続ける。不活性化される(膜からの細胞内への回収とか)ことがおこらなければ、匂いの発生源が特定できない。そこで、不活性化速度(処理速度)を越えて受容体が受容膜に存在しないように間引きするためにOr83bを利用しているのではないか?