嗅覚 蒸気圧 

水に溶けている、嗅物質aとbのどちらが誘因性が強いか(虫がよってくるか)調べる時、同じモル濃度の液に対する結果を単純に比較はできない。物質ごとに揮発性が違い、気相での密度は同じモル濃度の液でも物質により異なるからである。揮発性の指標としては各物質の蒸気圧を考える必要がある。嗅物質で水に溶けにくいものの場合は、一般に流動パラフィン炭化水素で揮発しない高分子のもの)で希釈して呈示され、これは純物質としてその蒸気圧を考えればよいが、水溶性の嗅物質(プロピオン酸、酢酸、エタノールなど)もあり、発酵した果実中(水溶液)の場合を考える。

その嗅覚を物理化学的に考える。
現実には開放系非平衡だが、簡単な概算のため、すべて温度一定の閉鎖系平衡時で考えてみる。閉鎖系平衡時では匂いの発生源を特定することは虫にはできないが、まあこれで考えてみる。
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*1成分気―液平衡
v(l-g)A=v(g-l)A   
(v(l-g)、v(g-l):蒸発、凝縮速度、A:界面面積)
v(l-g)=k l, v(g-l)=k g P’
P’=k l /k g=一定 (純物質の飽和蒸気圧)、

またP’= (n/V)RT よって気相での密度(n/V)一定
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*2成分(理想溶液)気―液平衡(ラウールの法則)

P1=X1P1’ P2=X2P2’  (X1、X2:液中でのモル分率)
( X1+X2= 1, P1+P2=P(全圧) )
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*2成分(希薄水溶液)気―液平衡(ヘンリーの法則成り立つと仮定)
溶媒(1)、溶質(2)とすると、

P2=X2P2’ =( m2/(m1+m2)) P2’ ≒ ( m2/m1) P2’
=( m2/(1000/Ms)) P2’
=( m2/55.6) P2’

ここで
m:液中での重量モル濃度(モル/kg溶媒、モル/リットル水溶媒)
Ms:溶媒(水)の分子量(g/モル)

またP2= (n2/V)RT   ( n2:気相中の物質2のモル数)
よってP2= (n2/V)RT=( m2/55.6) P2’

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*嗅物質a水溶液と嗅物質b水溶液での応答の比較
それぞれの液で

Pa= (na/V)RT=( ma/55.6) Pa
Pb= (nb/V)RT=( mb/55.6) Pb’

1)ma= mb(同濃度溶液での比較)

Pa/Pb = (na/V) /(nb/V)= Pa’ /Pb’

同濃度溶液を比較すると
    気相密度比=飽和蒸気圧比

2)na/V= nb/V(気相密度が同一になる条件検討)

Pa/Pb =1= (ma Pa’) /(mb Pb’) 

  気相密度が同一になるのは
    溶液濃度比=飽和蒸気圧比の逆数

つまり飽和蒸気圧が低い物質aが、
他の飽和蒸気圧の高い物質とある同じモル濃度の液で誘因性が
検出されはじめ、濃度上昇にともない同じように誘因性が高くなっていくとすれば、物質aは非常に高感度に応答を引き起こしていることになる。
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物質aに光学異性体鏡像異性体)が2種存在し、同モル濃度での,その2種に対する行動でみた誘因率が異なれば、鏡像異性体の飽和蒸気圧は同じであるから、そのどちらかを受容する受容体が存在し、2種を識別しているとしか考えられない。酵素反応の基質特異性と同じで片方の鏡像異性体しか識別しない受容体(タンパク質)があることになる。

行動実験で受容体の研究(同定)ができるはずである。