黄熱病を媒介する蚊 Aedes aegyptiの♀はヒトの血を吸い,黄熱病ウイルスをヒトに感染させる。蚊に吸血されやすいヒトとされにくいヒトがいることはよく知られている。「蚊はL乳酸を嗅覚により感知し,誘引されること,皮膚から分泌されるL乳酸量に個人差があり,そのため宿主選択性が見られること」を著者らは報告した。

著者らは4人の被験者に手を洗わせて,1時間何も触らないように指示し,ガラス棒を両手でもみもみさせて皮膚からの分泌物をガラス棒につけさせた。これとコントロールのガラス棒の2サンプルからの空気流をY字型に蚊に与え,どちらの匂いのするフィルタ網に誘引されるかを見た(ガラス棒との直接接触はない;だから嗅覚)。蚊への誘引性には被験者間試料で倍以上の大きな差がみられる場合もあった。11ケ月にわたって実験したが,被験者間の差は年間を通して同じ関係であった。各被験者の試料中のL乳酸量をL乳酸脱水素酵素,NADHを使ったベーリンガー社の試薬で測定したところ,強い誘引性を示したヒトの試料はL乳酸量が多かった。

次に誘引性の低いヒトの試料にL乳酸を気相に含む空気流を加えて蚊に呈示したところ,その誘引性は誘引性の高いヒトの試料を凌駕した。この乳酸による誘引性増強はdose-dependentである(たくさんぶくぶくさせ送り気相濃度上げた方がよってくる)。なお,乳酸とヒト皮膚試料が同時に呈示されたときに強い誘引性がみられ,乳酸単独呈示では誘引性はさほど高くないことから,L乳酸は他の匂いと協働的に嗅覚認知され、黄熱病媒介蚊を誘引していると考えられる

ヒト以外の哺乳動物の皮膚からの試料には蚊はほとんど誘引されないことが知られていたが,この試料に乳酸空気流を加えると,ヒト試料と同じ結果が得られた。つまり乳酸単独では誘引性はさほど高くないが,動物皮膚試料とともに乳酸を呈示すると強い誘引性がみられた。動物皮膚試料の乳酸含量を測定するといずれも測定不能(検出感度以下)であった。