1.ある嗅物質受容体OrX(この論文ではM4)遺伝子の上流塩基配列DNAと,その下流にあるOrXのCDSをリポーター遺伝子に置き換えたDNAをつなげたもの(transgene)を作製し,動物個体に導入する。染色体中の内在OrX領域とは違う染色体領域(Or(M71)とOr(M72)の間)に相同組換えにより挿入する。OrX(M4)上流塩基配列の発現調節機能により、このconstructからはリポーター蛋白が内在OrXと同じように転写翻訳され、OrXの発現している嗅細胞、その投射先の糸球体を可視化できると普通は

上記トランスジェニックマウス(ホモ接合)では、リポーターの発現がみられる嗅上皮のゾーンは,OrX(M4)発現のみられるゾーンIIとM71,M72の発現するゾーンIを含む広い領域である。すなわちnative Orとして内在OrX(M4)以外のOrを発現していると考えられるzoneの嗅上皮の嗅細胞にもリポーター発現がみられる。このようになる理由として,用いたOrX遺伝子の上流塩基配列が短い(特異的発現に必要な塩基配列領域を完全には含んでいない)という解釈ではないようである。(後述の図4D;同じtransgeneを他の染色体領域に挿入した時,ゾーンIIへの選択的発現がみられるからか)。解釈としては,OrX(M4)遺伝子の上流塩基配列による発現調節と,挿入された近傍のOr(M71他)の発現調節の多数の影響をうけ得るということらしい。「リポーターで可視化された細胞では,それぞれ1種のOrをnativeOrとして共発現しているため,そのnativeOrの発現している嗅細胞,その投射先の糸球体でリポーター発現が見られる(全体として広い発現領域を示す)」という解釈のようである。(この場合,nativeOr遺伝子は第二番目に選ばれたOrプロモーター,初めての正常Orという解釈らしい。第一の選択プロモータ(transgene)からの転写は続くという解釈である。)
また驚くべきことに,ゾーンIIでリポーターの発現がみられる嗅細胞は,内在OrXタンパクを発現している細胞ではない。(「だけではない」ではなく「ではない」なのである。論文結果には明確に書いていないがFig2Dと下記参照;論文議論には少し書いてあった)。M4-mRNAをもつ(従っておそらくnativeOrとして内在M4タンパクを発現していると考えられる)356個のin situ陽性嗅細胞でリポーター(LacZ)を発現している細胞は1つもない!!0である!!(Fig2D)これはいったいどうゆうことか?M4遺伝子の上流塩基配列をリポーターの発現調節配列として用いたつもりのはずである。M4発現系よりも,挿入された場所の近くのOr発現系の影響(M71の近くである)を受けるということ?。ただM71-mRNAをもつ(従っておそらくnativeOrとしてM71タンパクを発現していると考えられる)547個のin situ陽性嗅細胞でリポーター(LacZ)を発現している細胞は41個(7.5%)でこれを多いとみるか少ないとみるか。これよりM4発現系の影響が大きくてもいいような気がするが。おそらく,内在OrX(M4)遺伝子が選択された場合,transgeneの転写系は選択されず,従ってリポーター発現とM4-mRNA発現が共存することがないのではないか?(またtransgeneが第一のOrプロモーターとして選択された場合,正常Orタンパク無いために第二のOrプロモータとして内在M4が選択される確立は1000受容体分の1受容体だから,あったとしてもほとんど検出できないのだろう。これは議論に書いてあった。)

  • これはSerizawa et al.(2000)Nature Genetics,3, 687でMOR28のtransgenic allele(外来のもの)とendogenous allele(内在のもの)がどちらか片方しか1つの嗅細胞中で発現しない(1つの細胞で共発現することはない)ということと同じだろう。また2つの外来MOR28遺伝子を並置(tandem;それぞれ違うリポーターで発現をみれるようにしておく)し導入すると,どちらか片方しか1つの嗅細胞中で発現しない(1つの細胞で共発現することはない)ということと同じだろう。