1.2.3の結果から、何らかの機構で最初選択されたOrの正常タンパク産物が他のOrの発現を完全に抑制する機構が考えられている。どうゆう機構かは不明だが、同じような機構は免疫において各preB細胞での抗体が1種類だけしか作られない機構で考えられているそうだ。Sykファミリーのチロシンキナーゼが関係するらしいがどんな機構であろうか?

この論文は私にとって非常に読みにくい。
また1の場合と全く同じtransgeneだが,Or(M71)とOr(M72)の間に挿入するのでなく,他の染色体領域に挿入した動物では嗅上皮の発現ゾーンは本来M4発現がみられるzoneIIに限定される。4ところが広い領域の糸球体に投射する(図4D)ので,ゾーン選択機構と糸球体選択機構はことなるのだろう。またこの場合,ゾーン選択がzoneIIに限定ということは,OrX(M4)上流塩基配列の発現調節機能により、このconstructからはリポーター蛋白が内在OrXと同じゾーン選択性で転写翻訳されるということを示しているのだろう。だからM71とM72の間に挿入した1の場合で他のゾーンでもリポーター発現するのは近くのOr発現系の影響という上の解釈でよいような気がする。

以上を勝手にまとめ,次のような仮説として説明してもらうと素人にはわかりやすいと思うのだが,間違っているのだろうか,,。

各嗅細胞で,ある選択機構により1つのOrの発現選択が起こる(Serizawa et al(2003)の図6D,positive regulation)。他のOr発現を完全に排除する選択機構ではない(他のOrの発現も少しあり得る)。この選択では1つのアリルのみを選択するという点に注意が必要である。特に実験解析の場合,嗅細胞がOrXを選択するとしても,内在のOrXと,transgeneとして染色体の別の場所に挿入した外来OrXのどちらか1方しか選択しない(Serizawa et al.,2000)。どちらのOrX遺伝子を選択しても,OrX正常タンパクができれば,そのnegative regulationにより,そのOrXのCDSをもつmRNA(あるいは転写翻訳系)は保護され,他のOrの正常CDSをもつmRNAは転写されないか、もし転写されたとしても完全に排除(選択的分解)される。
Orの異常なCDSをもつか又はOrのCDSを持たないmRNAは存在している(本実験でも示された)。翻訳可能なら翻訳され,レポーターもてばその発現がみられることになる。

1の場合は,OrX(M4)遺伝子の上流塩基配列に、嗅物質受容体OrXのCDSの代わりにリポーター遺伝子をくっつけたDNAを動物個体に導入する。

  • OrのCDSを持たないこのmRNAは無視され,mRNAは存在し,リポーターが発現する。各嗅細胞はM4系とM71系等のいずれかによる発現調節を受け結果として広い範囲でリポーターが発現する。

2の場合は,OrX遺伝子の上流塩基配列+OrXのCDS+IRES+リポーター遺伝子をくっつけ動物個体に導入する。以下の機構で内在OrX(M4)が発現する領域(ゾーン2)の嗅細胞とその投射先の糸球体のみがリポーターで可視化される。

  • OrX以外のOrをnativeOrとして選択した細胞(ゾーンIとIIに存在しうる)では,このconstruct由来のmRNAは,外来OrXの正常CDSをもつので、(転写されず)存在しないか、存在したとしてもすぐ排除(選択的分解)され,従ってリポーター発現もない。ゾーンIで発現がみられなくなるのはこのためである。
  • このconstruct由来の外来OrXをnative Orとして選択した細胞(ゾーンIIに存在)では,このconstruct由来のmRNAは保護され,外来OrXとリポーターが発現する。OrX上流配列による調節によりゾーンIIでの外来OrXとリポーターの発現がみられる。
    • 1では挿入場所近傍のM71発現調節系の影響か、ゾーンIでもtransgeneの発現がみられるが、2ではなぜ、挿入場所近傍のM71発現調節系の影響によるゾーンIでの、この(M4正常CDSをもつ)construct由来の外来OrX(M4)をnative Orとして選択、このconstruct由来のmRNAの保護,従って外来OrXとリポーターのゾーンIでの発現がおこらないのか疑問があるが、ゾーン1では最初M4プロモータtransgeneの、挿入場所近傍のM71発現調節系の影響による選択はほとんどないのではないか。1のように正常Orを持たないtransgeneならば後で転写翻訳されるのではないか。論文のように「最初transgenのOrプロモーターを選択した場合、正常Orできなければ、第2のOrプロモータ選択、第一のOrプロモータからの発現も続く」というのでは2の場合ゾーン1で「この(M4正常CDSをもつ)construct由来の外来OrX(M4)をnative Orとして選択、このconstruct由来のmRNAの保護,従って外来OrXとリポーターのゾーンIでの発現がおこらないのか」説明できない。
  • このconstruct由来の外来OrXではなく,内在OrXをnative Orとして選択した細胞(ゾーンIIに存在)では,このconstruct由来の転写系は選択されてないので,リポーターが発現しない。
    • これはSerizawa et al.(2000)Nature Genetics,3, 687でMOR28のtransgenic allele(外来のもの)とendogenous allele(内在のもの)がどちらか片方しか1つの嗅細胞中で発現しない(1つの細胞で共発現することはない)ということを説明できる。また2つの外来MOR28遺伝子を並置(tandem;それぞれ違うリポーターで発現をみれるようにしておく)し導入すると,どちらか片方しか1つの嗅細胞中で発現しない(1つの細胞で共発現することはない)ということを説明できる。